【徹底解説】「肉×ワイン」ペアリングを学んでお肉のポテンシャルを最大限に!
はじめに
毎日の食卓にお肉料理が並ぶとき、皆様は何を合わせて飲まれていますか? ビールやハイボール、焼酎など、好みのお酒と合わせる時間は至福のひとときです。
もし、その食卓をもう少しだけ特別なものにしたい時、あるいは良いお肉が手に入った時、選択肢に入れていただきたいのが「ワイン」です。
「ワイン選びはハードルが高い」「種類が多すぎて分からない」 そう感じている方も多いかもしれません。
しかし、ワインとお肉の関係性は、実はとても論理的でシンプル。
お互いの良さを引き立て合い、味わいを何倍にも広げる組み合わせのことを「ペアリング(マリアージュ)」と呼びます。
このペアリングの基本さえ押さえておけば、スーパーマーケットで手に入るワインでも、自宅での食事が驚くほど豊かになります。
今回は、肉ラボが考える「肉とワインの心地よい関係」について、基礎から応用まで丁寧にお伝えします。
第1章 ペアリングの基本原則

失敗しないワイン選びのために、まずは2つの大きな指標を覚えておきましょう。
これらは決して難しいルールではなく、食材の持つ性質に寄り添うための指針です。
① 色調を合わせる
最もシンプルかつ、効果的な選び方が「食材の色とワインの色を合わせる」ことです。
- 赤いお肉(牛肉・羊肉・ジビエ・赤身の魚) :
鉄分が多く、味わいのしっかりした赤いお肉には、同じく渋みやコクのある「赤ワイン」が調和します。 - 白いお肉(鶏肉・豚肉・白身魚):
淡白で繊細な味わいの白いお肉には、酸味がきれいで軽やかな「白ワイン」が寄り添います。
視覚的な直感は、味覚のバランスとも密接にリンクしています。
迷ったときは、まず料理の「見た目の色」を参考にしてみてください。
② 重さを合わせる
次に意識したいのが、味わいの「重さ(ボディ)」です。
・濃厚な味わい・脂が多い料理 ⇒ フルボディ(重め)のワイン
・さっぱりした味わい・脂が少ない料理 ⇒ ライトボディ(軽め)のワイン
例えば同じ牛肉料理でも、こってりとした「ステーキ」と、出汁で食べる「しゃぶしゃぶ」では、求められるワインのタイプが異なります。
料理のボリューム感とワインの飲み口を同調させることで、口の中でどちらかが主張しすぎることなく、自然な一体感が生まれます。
第2章 【牛肉】部位と脂のバランスで選ぶ赤ワイン

「牛肉には赤ワイン」という定説を、もう少し深く掘り下げてみましょう。
牛肉の部位や、和牛特有のサシ(脂)の入り具合によって、最適な赤ワインは変化します。
① 霜降り肉(サーロイン・カルビ)とカベルネ・ソーヴィニヨン
和牛の魅力である、口溶けの良い濃厚な脂。
この旨味を最大限に楽しむには、「カベルネ・ソーヴィニヨン」のような、渋み(タンニン)がしっかりとしたフルボディの赤ワインが好相性です。
ワインに含まれるタンニンには、口の中に残る脂分を洗い流し、リセットさせる効果があります。
濃厚なお肉を食べた後にワインを含むと、口の中がさっぱりとし、次の一口をまた新鮮な気持ちで迎えることができます。
これは、理にかなった素晴らしい補完関係です。
② 赤身肉(ヒレ・モモ・ランプ)とピノ・ノワール
近年人気の高まる赤身肉は、噛みしめるほどに広がる繊細な旨味が特徴です。
ここに渋みの強すぎるワインを合わせると、お肉の風味が隠れてしまうことがあります。
おすすめは、「ピノ・ノワール」や「メルロー」といった、果実味が豊かで口当たりの優しいミディアムボディの赤ワインです。
お肉の持つ鉄分のニュアンスに、ワインのベリー系の香りが優しく重なり、ソースのような役割を果たしてくれます。
③ 和風の味付けと日本の赤ワイン
すき焼きや肉じゃがなど、醤油と砂糖を使った甘辛い味付けには、日本の食卓で生まれた「マスカット・ベーリーA」などの赤ワインもしっくりきます。
醤油の香ばしさとワインの果実味が馴染みやすく、ほっとする味わいを演出します。
第3章 【豚肉】白ワインとも赤ワインとも寄り添う柔軟性

「白身の肉」に分類される豚肉ですが、調理法によって赤ワインとも白ワインとも相性の良い、非常に懐の深い食材です。
ポイントは「脂の甘み」をどう活かすかです。
① しゃぶしゃぶ・ボイルと辛口白ワイン
豚肉を茹でたり蒸したりして、余分な脂を落としてさっぱりといただく場合。
ここでは「リースリング」や「ソーヴィニヨン・ブラン」といった、酸味の効いた辛口の白ワインが適しています。
柑橘系の香りが、ポン酢やレモンのように機能し、豚肉の甘みを爽やかに引き立てます。
② とんかつ・ソテーとロゼワイン
豚肉の脂の甘みや、香ばしい調理法には、「ロゼワイン」という選択肢をご提案します。
白ワインの酸味と赤ワインのコク、両方を兼ね備えたロゼワインは、豚肉料理にとって理想的なパートナーです。
特に揚げ物の場合、油の重たさを切りつつ、豚肉の旨味を包み込んでくれます。
第4章 【鶏肉】淡白だからこそ、変化を楽しむ

鶏肉はクセが少なく淡白なため、味付け(ソース)や調理法の影響をダイレクトに受けます。
つまり、ペアリングのバリエーションが最も豊富な食材とも言えます。
唐揚げとスパークリングワイン
日常的なメニューである「鶏の唐揚げ」も、ワインを合わせることでご馳走に変わります。おすすめは、スパークリングワインです。
シュワっと弾ける炭酸の刺激が、衣の油分を心地よく洗い流してくれます。
レモンを絞るような感覚で、ドライな泡を合わせてみてください。ビールとはまた違った、洗練された食体験になるはずです。
グリルチキンと樽熟成のシャルドネ
塩やハーブでシンプルに焼いた鶏肉、特に皮目を香ばしく焼き上げたグリルには、「シャルドネ」がよく合います。
中でも、木樽で熟成させたタイプ(バニラやトーストのような香りがするもの)を選ぶと、その香ばしさが鶏肉のロースト感とリンクし、奥行きのある味わいを楽しめます。
第5章 【羊肉・ジビエ】個性を楽しむペアリング
ラム(羊肉)やジビエ肉には、特有の野趣あふれる香りがあります。
これを消すのではなく、「個性」として調和させるのがワインの役割です。

ラム肉とシラー(シラーズ)
羊肉のパートナーとして世界中で愛されているのが、「シラー(シラーズ)」という品種の赤ワインです。
このワインは、黒胡椒のようなスパイシーな香りを持っています。
羊肉の独特な香りにスパイスのニュアンスが重なることで、クセが「旨味」へと昇華される、ハーブを多用した料理とも相性が良い組み合わせです。
第6章 家庭でできる「架け橋」のテクニック

ここまでは素材別にご紹介しましたが、冷蔵庫にあるワインと食材が、必ずしも理論通りに揃わないこともあるでしょう。
「今日は白ワインしかないけれど、牛肉が食べたい」といったケースです。
そんな時は、「ソースや薬味」でワインとの接点を作ることをお勧めします。
・白ワイン × 牛肉の場合 :
レモン、ゆず胡椒、ホースラディッシュ(西洋わさび)、ポン酢など、酸味や爽やかな辛味のある調味料を添えてみてください。
これらがワインの酸味とリンクし、違和感なく楽しめます。
・赤ワイン × 鶏肉の場合 :
バルサミコ酢や黒胡椒、照り焼きソースなど、色の濃い調味料を使います。
淡白な鶏肉にコクを与えることで、赤ワインの重さに負けない味わいになります。
料理全体の色味をワインに近づけるよう調整するだけで、ペアリングの許容範囲は大きく広がります。
第7章 温度で変わるおいしさ

最後に、ワインをより美味しく味わうための「温度」について少し触れておきます。
一般的に「赤ワインは常温で」と言われますが、これはヨーロッパの石造りの家の室温(16〜18℃程度)を指しています。
日本の室内、特に夏場などは赤ワインにとって温かすぎることがあります。
・赤ワイン:飲む30分ほど前に冷蔵庫へ。少し冷やすことで味が引き締まり、お肉の脂をきれいに切ってくれます。
・白ワイン:しっかりと冷やして。酸味が際立ち、白いお肉料理のさっぱり感を助長します。
厳密な温度管理は必要ありませんが、「少し冷やしてみる」「冷えすぎたら手で温める」といった調整をするだけで、お肉との相性は格段に良くなります。
まとめ
ワインとお肉のペアリングについて解説してまいりましたが、これらはあくまで「より美味しく楽しむためのヒント」に過ぎません。
味覚は人それぞれであり、その日の体調や気分、一緒に食べる相手によっても「美味しい」と感じる基準は変わります。
「ルール通りに選ばなければ」と難しく考える必要はありません。
まずは、 「今日はこってりしたお肉だから、濃い色のワインにしてみよう」 「さっぱりした鶏肉だから、冷えた白ワインを開けてみよう」 そんな気軽な動機から始めてみてください。
偶然見つけたお気に入りの組み合わせこそが、皆様にとっての「正解」です。
今夜の食卓が、お肉とワインの香りでより豊かなものになりますように。